みかづきときどき日記

本や日常のことなどゆるゆる

2023-01-01から1年間の記事一覧

逢坂冬馬『歌われなかった海賊へ』(早川書房、2023年)

物語は現代のドイツから始まる。 歴史教師のクリスティアン・ホルンガッハーは、30年間「この市と戦争」という課題を生徒に出し続けていた。次第に戦争の記憶が薄れていく時代にあって、この課題の意味はあるのかと思うホルンガッハーは、生徒たちのレポート…

浜野佐知とキャンディダ・ロイヤル

さて、4月、5月、6月と、ブログを放置していったいぜんたい何をやっとったのかと。 なんだか今年度の春学期はいそがしかった。学内の仕事が忙しかったということもあるのですが、5月には日本英文学会というところでシンポジウムがあり、4月や5月の連休はそち…

深沢潮『李の花は散っても』(朝日新聞出版、2023年)

この春学期(前期)はなぜかとっても忙しくて、ブログも放置状態に(汗)。 仕事で必要、という以外の小説を読むまとまった時間がなかなか取れなくてもどかしい状態ではありましたが(「物語」養分欠乏症)、夜寝る前に少しずつ読み進めていたのが深沢潮『李…

【読み直す一冊】砂金玲子『ニューヨークの光と影−−理想と現実のはざ間から』(朝日ソノラマ、1982年)

ニューヨーク・タイムズ・ブック・レビューのポッドキャストで、最近のエントリー“Public Libraries, and Profiling Paul Harding”(2023年2月23日)を聞きながら出勤。そこでは、写真家のエリカ・アッカーバーグとレビュー・エディターのエリザベス・イーガン…

『絶縁』(小学館、2022年)

わかってはいましたが、1月から2月にかけてはやっぱり忙しいので、週一でのアップはもはや無理でした(汗)。 とはいえひさびさにすごく面白いアンソロジー『絶縁』を読んだので、ちょっとメモ的にアップ。ほんとどの作品も読み応えがあって、「アジア9都市9…

【読み直す一冊】ローラ・インガルス・ワイルダー『長い冬』(鈴木哲子訳)

わたしは三人姉妹の次女なんですが、だから次女が活躍する物語が好きだったりします。『若草物語』とか『高慢と偏見』とか、大きな森の小さな家シリーズとか。次女の物語。 わたしが持っている『大きな森の小さな家』(福音館、恩地三保子訳、初版1972年)は…

Elaine Hsieh Chou, Disorientation (Picador, 2022)

大学院の修士課程の学生だったとき、授業のテキストに使用していたケンブリッジ版アメリカ文学史のハードカバーを抱えて(重くて厚くてカバンに入らない)古本屋の店先の本を見ていたとき、わたしが英語の本を持っていたのを見た男性から「日本の本を読め、…

【読み返す一冊】エーリヒ・ケストナー『飛ぶ教室』(高橋健二訳、岩波書店、1962年)

わたしの母親は大学で児童学を専攻しており(児童文学者の中川正文氏の授業など受けてたらしい)、結婚前は幼稚園の先生をしていたんですね。だから家には児童文学の本とか絵本がわりとあったんです。その中に、岩波書店のケストナー少年文学全集があり、『…

高原英理『詩歌探偵フラヌール』(河出書房新社、2022年)

昔はもっと詩を読んでいたような気がするけれど、最近はめっきり詩を読む頻度が減ってしまった。 「詩」を学べば学ぶほど難しいな、と感じるときもあって、それで読むものが小説に偏ってしまったりしている。でも、そもそも詩歌とは、もっともっと日常の中に…

磨崖仏への道

以前、大学図書館で借りたた吉田光男『近代ソウル都市社会研究—漢城の街と住民』(草風館)は、ソウル(漢城)の都市計画をたどる研究書で、第一章は風水都市としての説明でめちゃくちゃ面白かった。 「主山は北岳山とし、『穴』をその前方、現景福宮の地と…

【読み返す一冊】岡真史『ぼくは12歳』(筑摩書房、1976年)

1970年代の半ばに筑摩書房が倒産したとき、「筑摩書房を応援するために筑摩の本を買おう」と、母が筑摩書房の本を何冊かまとめて買ってきたことがあった。そのうちの一冊が、この『ぼくは12歳』だった。 わたしはそのとき小学校3年生くらいだったか…。 この…